吟亮流吟風会 会報:令和2年9月

 子曰、鄙夫(ひふ)は与(とも)に君に事うべけんや。其の未だ之を得ざれば、之を得んと患(うれ)う。既に之を得れば、之を失わんことを思う。(いやし)くも之を失わんことを患うれば至らざる所無し。

 孔子先生は言われた「志の低い、人格下劣の者と一緒に奉公など出きるのものではない。なぜなら、そうした者は自分の地位や権力が得られない時どうすればそれが手にはいるかということばかりに一生懸命になるし、いったんそうした地位や権力を手にすると、今度はそれを失わないことばかりを心配する。そして、地位や権力を失わないようにと心配するあまりどんなことでもやりかねなくなる」。

吟亮だより

 既報の通り、大変残念なことですが、創立九十周年記念大会を中止することにいたしました。できれば来年、コロナが収まりましたら再度計画をしていくことにしたいのですが、現時点ではなんとも言えません。

 現時点でも教室のお稽古は開催しているところとしていないところがあります。これは当面続くものと思います。教室経由で皆さまのお手元に渡る方法で今まで本部発行の書類は配布されてきましたが、教室の開催が疎らである以上、迅速に安全に無駄なく皆さまのお手元にお届けするには、将来を見据えてインターネット経由で配布させていただく方法に徐々にシフトさせていただきます。当面はメールとLINEとファックスを併用してお送りすることにします。この会報も、その第一弾として、PDFファイルをメールとLINEでお送りしつつ、ご希望の方にはファックスで送付いたします。尤も本部からはパソコンで皆さまのファックスにお送りしますので、受信する装置の違いでしかないですが。

 オンラインの話はこのぐらいにして本題の吟詠の話をしたいと思います。最近の私の練習曲は「祇園精舎」です。練習曲として優れていると思うのは、陰音階と陽音階を言ったり来たりしていて、音程の安定にはとても役立つからです。それに、初代特有の揺りとビブラートの調整も高度で、何度練習しても初代のようにはなりません。完全コピーしているつもりでも、録音すると全然違うので、さらに練習する、の繰り返しです。不覚にも最近になって気づいたのは、「無情の」節調で、「シ→ラ→ソ」だと思っていたのが、「シ♭」を経過音ではなく意識的に出していることです。まさに無常感を感じるのはこの半音づつ落としていく高等技術によるものとわかりました。皆さんもコンダクターで音を出して確認してみてください。詩吟ではほとんど使わないですが、いかに奥深い吟詠になるかを試してみてください。

◎吟詠知識メモ(その五) 千葉吟風会会長  三橋吟煌
⦿魅力ある吟詠の基礎条件
◯ 発声・発音の技術
 日本語はアイウエオの五つの母音(ぼいん)とカキクケコ、サシスセソ等の子音(しいん)から成り立っています。日本語で綴られた詩歌を朗詠する吟詠は、これらすべての音の発声が大切になります。発声で、先ずマスターしなければならないのは、ア、イ、ウ、エ、オ、の五つの母音と「ン」の発声です。 日本語のすべての音は、発音に際して長く余韻を引くと必ず「母音」か「ン」になるからです。つまり、子音の部分も各語の終わりは母音化しています(第1図)。「母音」と「ン」をきれいに発声することは、良い声を出す大切な条件となります。

1、母音について
口の開き方
 口を開けば開くほど声が美しく響くといった概念が一般的にあるようですが、この考え方は、そのままストレートには当てはまりません。
「ア」の場合は、口を開き過ぎると日本語の「ア」とかけはなれた音になります。「イ」「ウ」「エ」などの場合も口を開き過ぎると別の音声になってしまいます(第2図)。そのためには、私たちが日常会話の中で話している日本語の明確さをそのまま明瞭に発声し、しかもそれが朗々と響くようにすることが大切になります。
(1)「ア」の発声について(第3図)
 口の開き具合は、大きなアクビを十としたら、八程度の口の開きにします。口腔を十文字に切ったとしたら、真ん中よりやや前で音を響かせる。舌の位置は、奥に軽くひっこめ、下顎(したあご)に軽くつく程度とする。
(2)「イ」の発声について(第4図)
 口腔を横に引いてかなり狭くし、歯を軽く触る程度に、音は、口腔の下半分、奥歯の方に響かせます。中途半端な響かせ方をすると不鮮明になり「イ」であるか「エ」であるかが解からなくなるので注意してください。
(3)「ウ」の発声について(第5図)
 下顎の開きをやや狭くして更に唇をつぼめるように発声します。音は口腔の前半分に響かせるようにします。
(4)「エ」の発声について(第6図)
 口は「イ」よりも若干開いた形になります。舌の位置は、下顎の内部中央に置きます。音は、口腔の上半分、両方の目尻の下にある骨のあたりに響かせる感じで発声します。
(5)「オ」の発声について(第7図)
 発声の要領は「ア」と同じですが、口の形や音の響かせる位置は全く違います。唇はつぼめて丸くし、前につき出した形で発声する。響かせる位置は、口腔の後半部分、後頭部のくぼみに響かせるように発声するときれいな「オ」になります。
(6)「ン」の発声について
 唇を軽く閉じ、声を鼻から出すようにします。ただし、口腔を閉ざした場合でも、口腔や咽喉の状態を変化させることにより声の質が違ってきます。舌の位置を色々変化させて様々な表情の「ン」を発声してみてください。
※「ア」・「イ」・「ウ」・「オ」・「エ」・「ン」の度に自分の声をテープに録音し再現し、明確度と響き具合の両面において最も良い、声の発声をするコツをつかんでください。 
◎九月の吟詠ごよみ 
■作 者
 峰 章山 (1946年~)   漢詩家。音楽プロデューサー

■通 訳
千鳥、浜辺をさまよいながらなぜ鳴いているのか?
群から離れてしまって独りになったのは、私も同じだ。
月の光がその寂しさを包んでくれる。
千鳥がもう一度鳴くと、一層心が揺れ動く。
85周年の教本の浜千鳥とは別のバージョンです。
唱歌と詩吟の繋ぎは、「レミファ」と弾くと「チドリ(ラファファ)」が出やすくなります。

◎本部よりお知らせ
 令和2年11月29日に予定されておりました吟亮流二代宗家一周忌追悼及び吟亮流吟風会創立九十周年記念公演は中止(延期)になりました。申込された皆様にはご迷惑おかけして申し訳ございませんでした。

 ◎編集後記
 一日の終わり、夕食後風呂に入る。この暑さの対処法には至極の一時である。浴槽に浸かりながら今日一日の出来事を反省する。反省しているうちに口は朗吟している。朗吟は風呂の波間と合って気分が癒される。とは言え朗吟を正式に習ったことはなく過去に一度聞いただけであるが何故かその詠が耳に残って離れない。自己流で楽しんでいるだけである。それが楽しみなら好としよう。皆様も詩吟バカにならず他に楽しみをみつけてみよう。〈広報部〉